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明日の地球のために

ホーム > 研修・指導 > 海外研修・技術指導 > 平成26年度の事業 > 平成26年度地球環境基金「海外派遣研修-フィリピン」

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掲載日:2015年3月10日

平成26年度地球環境基金「海外派遣研修-フィリピン」を実施しました。

事業の概要

 ICETTでは、独立行政法人環境再生保全機構の主催する「H26年度海外派遣研修」事業をフィリピンで実施しました。NGO/NPOの民間環境活動団体のスタッフや参加活動経験を有する者、開発途上地域における環境保全活動への参加に関心を有する者を対象として、開発途上国の環境問題の現状についての理解を深め、現場で活動する上で必要となる知識やノウハウ、技術を習得することにより、国際環境協力について専門的な人材を育成することを目指しました。

 研修生は、短期コース4名(9月6日~9月15日)と長期コースの6名(9月6日~9月25日)の10名で大学生7名、社会人3名という構成でした。 9月の渡航に先駆けて選考された研修生は全国から8月10日、11日に東京に集合し、事前研修に参加しました。ここでは、フィリピンはどのような国かを知ると同時に、初めて顔を合わせる研修生同士がよりよいコミュニケーションを取れるようにアイスブレークを通じて自己紹介をしました。また、渡航した際に行うグループワークのグループ分けや個人の調査テーマを決め、渡航までに準備することとしました。グループワークのテーマは、「フィリピンにおける水質汚染問題」、「各市の廃棄物管理」、「経済発展と環境保全の両立の実現へ」でした。

 訪問した地域は次の順です。①マニラ首都圏、②セブ州、③パラワン州、①マニラ首都圏(再訪)。(地図) 

フィリピン地図

 

  事業の内容 

①マニラ首都圏での活動

 最初に、国際NPOとして長い歴史を持つOISCA Internationalのマニラオフィスを訪ね、OISCAの「食料第一(Food First)」の理念やフィリピンで実施されている事業と各研修センターについて説明を伺いました。どのように地域の人を巻き込んで継続した事業にできるかという点では、現地に溶け込み一緒に作業しながら話をすると、お互いの理解が深まる、など長い経験から得られたものでとても興味深く、お話を伺いました。

 フィリピン環境天然資源省環境規制局(DENR-EMB)を訪問し、EMBからはフィリピン国の環境政策について、NGO Green Convergence代表Dr. Angelina Galangとはフィリピンと日本のNGOについてお互いに発表を行い、意見交換の時間を持ちました。「日本では、NGO/NPOの職員は給料が安いことから若い人のなり手がいないが、フィリピンではどうか」という質問に対して、Dr. Galangからは「フィリピンでも同じ状況であり、すでに退職した時間もお金もゆとりがある人がNGO/NPOで働くことが多い」と回答がありました。

 午後からは、EMB職員の同行でNPOの「Kilus Foundation」を訪問しました。 このNPOは、主婦が子供の世話をしながら家計を助けるために働ける場所として設立され、ジュースのパックなどごみとして捨てられるものを材料として、アクセサリやーやバッグなどを製作し、販売しています。現在は、その製品は海外でも人気が出ており、年商1億円も売り上げがあるということでした。

KilusFoundation
NPO Kilus Foundationにてインタビュー
Piercefrompackage
Kilus Foundationで販売されているピアス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貧困からの脱却を目指し、住居、教育、職業を提供しながら自立支援をしているNPO「Gawad Kalinga」のEnchanted Farmを訪問しました。ここでは、住民自らが家を建て、子供には敷地内の学校で教育を受けさせ、親は海外から来ている社会的企業家によって立ち上げられた事業に携わりその技術を習得して生活の糧を得ることで、最終的に貧困から脱却させることを目標としています。たとえば、現地にあるココナッツから作られた酢と水牛のミルクを使ったチーズ作り、ぬいぐるみ作り、現地にあるハーブと蜂蜜でつくられた飲み物などが紹介されました。飲み物は現在、空港などで販売され、ぬいぐるみは、近々トイザらスでも販売が予定されているということで、それぞれがビジネス展開をしています。

GawadKalinga
Gawad Kalinga Enchaned Farmにてチーズ作り体験
Landfillsite
セブ州マンダウエ市の再生中の廃棄物処理場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②セブ州での活動

 次に、日本からも多くの観光客が訪れるセブ島に向かい、空港から近いマンダウエ市を訪問しました。かつては、汚染された市と不名誉なレッテルを貼られたこともありましたが、有効な環境施策により2001年には、「一番緑が多いきれいな市」という表彰も受けるほど劇的に改善を遂げました。市長を表敬訪問後、市の固形廃棄物部長Mendoza氏よりマンダウエ市の廃棄物対策について説明を伺いました。同市では、固形廃棄物の60%を占める有機系廃棄物を適正処理することにより、節約される予算を他の有益なものに振り分けることができると考え、各家庭で高倉式コンポストを行い、出来上がった堆肥を家庭の花壇や菜園で使ってもらう活動を行っています。

 マンダウエ市にあるかつてのUmapad衛生埋立処理場も訪問しました。現在は、処理場を平坦に均しています。今後は処理場を各バランガイ(村、地区または区)からの資源回収物の一時保管場にする計画があります。その処理場に向かう道の両側には、ウエイストピッカーと呼ばれる処理場から有価物を拾って生活をしている低所得層が暮らしています。研修生の多くがその生活の様子を見て言葉を失っていました。

  また、マンダウエ市では、廃棄物処理に活発な活動をしているバランガイを市が表彰しています。その1位、2位のバランガイを訪問しました。それらのバランガイでは、有機系廃棄物をコンポスト化して、出来上がった堆肥は、農家などに売却しています。研修生は、小さく破砕されたプラスチック片を、家具工場から廃棄物として出されるビニールレザーで作られたクッションや枕の中身として再利用し、商品化している様子を見学し、その地区の住民に自分たちのテーマに沿ったアンケートの聞き取りをしました。 

 この後、短期の研修生は、多忙な10日間を終え、マニラを経由して帰国の途につきました。 

③パラワン州での活動

 次に長期の研修生は最後の楽園と言われるパラワン島へ移動し、自然豊かな島で研修を行いました。プエルトプリンセサ市職員の同行で世界自然遺産の地底河川国立公園を訪問しました。観光資源について自然保護をしながらそれらの観光資源をどのように活用するのかという「Community-Based Sustainable Tourism (コミュニティーベースの持続可能な環境管理)のあり方」について学びました。地底河川国立公園では1日の入場者数を制限していて、希望者は事前登録が必要となり、入場料と環境税を支払います。住民は、洞窟までの渡し舟や洞窟の中を進むボートの漕ぎ手として働いていて、観光ガイドとして観光客を楽しませるために会話力なども訓練されています。

 

Undergroundriver
Underground Riverを進む小さい手漕ぎボート
Boat
Underground Riverまでの渡し舟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 豊かな自然を守るために活動している2つのNPOを訪問しました。1つは、高価な木材の黒檀を違法伐採し、海外に密輸をする船の取締りや、シアンの入った瓶をサンゴにぶつけてサンゴの中に住む魚を気絶させて生け捕りにする密漁を警察と共に取り締るなど、危険と背中合わせの活動をしているNPOです。もう1つは、行政と住民の間に入り、法的科学的な面から行政にも提言をするなど支援をする弁護士や科学者が活動をしています。どちらも日本のNPOとはかなり違う活動をしているために、研修生は興味深く説明を伺いました。

 研修生は訪問した各市でグループで調査した内容に基づき、自分たちの考察を入れて提言、発表をしました。マンダウエ市での参加者は市の廃棄物部長や訪問した2つバランガイの人々、NPO職員でした。水の汚染について発表したチームからはパックテストを使ってマンダウエ市の川の汚染がどの程度かなど説明をしました。廃棄物について発表したチームからは、削減を推進するために各家庭を回る「環境指導員」の導入について提言があり、市の廃棄物部長は是非検討してみたいと回答しました。プエルトプリンセサ市での発表は市職員、訪問したNPO代表者が参加してくれて、各発表に非常に興味を持ってもらい、また短時間の調査では不足していた部分について問題提起もしてもらいました。

 パラワンでは、OISCAの農業研修センターも訪問しました。OISCAの名前は広く知られており、ここで研修する若者たちは近隣の町から農業技術を習得するためにこのセンターに来ているということでした。研修生同士ですぐに打ち解け、パパイヤとゴムの木の植樹を行いました。またOISCAの支援するマビニ小学校を訪問しました。土曜日にも関らず多くの児童が集まって歓迎をしてくれました。研修生は一緒に折り紙を折り、自分たちで考えた環境保全の大切さを訴える寸劇を披露し、児童からはお礼にダンスが披露され、楽しい時間を過ごしました。この後、小学校でもマホガニーの木を一緒に植樹しました。小学校の後、干潮に合わせて海岸部へ移動し、マングローブの苗木100本を植林しました。足を取られる泥の浜辺を進み、植林は金属の棒で穴を開けたところに棒状の苗木を差し込むという一見簡単な作業のようですがなかなか体力のいる作業でした。また、これらが根付く可能性は低く成長したマングローブ林がいかに貴重かを研修生は身をもって体験しました。

OISCA
PalawanのOISCAで記念植樹
EnvironmentalEducation
Mabini小学校での環境教育の寸劇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Treeplanting
Palawan ArbolanのMabini小学校での記念植樹

  

 

 

Mangroveplanting2
マングローブ植林風景
Mangroveplanting
マングローブの苗木

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①マニラ首都圏に戻って

 マニラに戻った研修生とフィリピン最大のラグナ湖の見学をしました。ラグナ湖は琵琶湖の約1.3倍の大きさで魚の養殖や農業、工業に広く活用されています。訪問したBinangona地区では、漁業の船が沿岸に群生しているホテイアオイに邪魔されて進みにくいため、漁師が湖に飛び込み船を進める姿が見られました。

Lagunalake
ホテイアオイが茂ったLaguna湖でボートを進める人

 

 

 フィリピン大学にて、参加型地域社会開発について講義を受けました。プロジェクト実施する際に、その土地に根付くプロジェクトとするためにどういうことが必要かということを理解するために行いました。講義後には、フィリピン大学に留学している日本人学生やフィリピン人学生と交流を持つことができました。

 

matahimik
プエルトプリンセサ市不法居住区

 

 

 研修の終盤に、マニラ湾に面した日本大使館を訪問し、この研修について研修生より画像を見ながら活動内容を説明しました。書記官の方々から、フィリピンではどのようなNGO/NPO活動が行われているのか、また今後はどのようなものが望まれているのかなど現地の状況について教えていただきました。

 渡航中は、すべての工程を英語で実施したため、最初は聞き取れない、話せないなど戸惑いのあった研修生が日を追うごとに自分たちで質問をし、積極的に住民にインタビューをするなど大きく成長していく様子が伺えました。また、現地では、深刻な貧困問題から環境を破壊してしまう人々などについても知ることができ、特に貧困のレベルは日本で想像していたものとははるかに異なるものであり、実際に訪問することで理解できたことが大きな収穫となったようでした。そして、この機会にいろいろな活動をしている研修生同士お互いに得るものがあり、貴重な出会いが出来たことが本当によかったという感想がありました。

 

Children1
スペイン統治時代の名残のある石畳で

 

 

 帰国後も研修生は滞在中個別にインタビューなどで得た情報を基に報告書を作成し、11月15日に行われた事後報告会での発表を最後に、8月の事前研修から海外派遣、そして11月までの多忙かつ濃厚な4ヶ月間を終了しました。

 今後は、これらの活動の経験をNGO/NPO活動、国際協力などに生かしてもらえることを期待しています。 

                                                                  (喜瀬・内田)